リクナビ問題に見る なぜ企業は内定辞退を詳しく知りたいのか

リクナビ問題に見る なぜ企業は内定辞退を詳しく知りたいのか

現在大きな話題となっている「内定辞退率予測データ購入問題」について、採用担当者目線で見た問題点と私見をまとめました。

 おさらい

「リクナビ問題」とは

まず本文に入る前に、頭の整理として本件の概要を見てみましょう。本件を要約すると、就活学生の「内定辞退率」を本人の十分な同意なしに予測し、約40社に有償で提供していました。

個人情報保護法等に抵触する恐れがあり、現在も事実確認等調査が行われている状況です。なお有償で購入した企業が、名だたる大企業ばかりであったことから、本件がよりクローズアップされる事態に発展しました。

採用担当者側から見た「内定辞退」の印象は?

私が採用担当者だった頃、内定者からの内定辞退は何度も受けました。まず私が感じたのは、自分の力量のなさでしたね。辞退者に対する怒りは湧きませんでした。営業と同じで、取引成立寸前で失注してしまうのと心境は同じかと思います。もし取引で失注した場合は、なぜ失注したのか、改善ポイントはどこにあったのか等分析をして次に臨みますよね。

ただこれが新卒採用となると話は別です。きっちり電話なりメールなりでも辞退の旨連絡が来ればよいのですが、ビジネスと違い対学生の間では忽然と連絡が来なくなるといった「サイレント辞退」があるのが実情です。(選考では所謂サイレントお祈り[不合格を伝えず学生に連絡しないことの通称。私は一社会人として企業が対学生に対して一番やってはいけないことだと思います。]なるものがありますが、それと性格は似ています)企業側としては簡単に内定取り消しができず、追加募集をスタートすべきかどうか難しい局面に立たされてしまいます。

特に新卒採用市場は、時期を逸してしまうと学生が活動を終了してしまい、追加募集をしても採る人がいない状況が生まれます。結果的にローテーションや人員配置等、企業の人事戦略に大きな影響を及ぼしてしまいます。つまり企業側としては、「辞退する事実」(辞退するのか、ちゃんと入社するのか)と「辞退する理由」(なぜ辞退するのか、他社と比較してどこが劣後するのか)が、直近のアクション(追加募集、人員配置等)と今後の改善ポイント(次年度以降の採用活動)を洗う上で、非常に重要となります。

さて、今回のリクナビ問題では、学生の閲覧予測をもとに算出されたデータとのことですが、果たしてこのデータが「学生の本音」を吸い上げるに足りたのでしょうか。企業側が本当に欲しい情報が網羅されていたのでしょうか。私見ですが、購入した企業側も、データの整合性をしっかり検討すべきではなかったのかと思います。

なぜ企業は辞退率データを「買って」しまうのか

上記にも記載した通り、企業側としてほしい情報は、「辞退する事実」と「辞退する理由」です。データとして信用に足りるかどうか不明瞭にもかかわらず、それでも購入してしまうほどインパクトがある辞退率予測。購入する企業側の問題と記載はしましたが、その心情は一担当者だった頃の自分を思い返すと少なからず理解はできます。

新卒採用では、学生の皆さんが思っている以上にコストがかかります。(例えばナビ媒体への掲載料や、イベントへの出展料、広告掲載料や細かいことを言えば地方への出張料等)1人あたりに割り戻すと、およそ50万程度と言われています。(100人採用する会社だとすると単純計算で5,000万円、これだけ稼ぐのは容易ではありません。)

企業側は、辞退理由等を分析して、次年度以降により効果的にこのコストを回収する必要があります。私はこのコストを投資と呼んでいました。投資をすれば回収するのが必然ですよね。コスト回収のための改善点を分析する上で、そのデータを「買える」のであればこれほど楽なことはありません。

また、上述のとおり、新卒採用の失敗は人事戦略に大きな影響を及ぼすことから、辞退等の不測の事態にはあらかじめ備えたいと思うのが普通です。ただしデータは、何かを分析する上で非常に有用に働きますが、使い方次第で全く役に立たない側面も持っています。

今回の場合、「辞退する事実」は予測できるかもしれません。しかし、「辞退する理由」までつかめるでしょうか。今回の問題で私が強く感じたのは、リクルーターと学生との関係性が構築されていれば、このようなデータは必要なかったのでは?ということです。

私が大手商社に入社を決めた最大の理由は、当時私を担当してくれたリクルーターと一緒に働きたいという気持ちでした。リクルーターと内定者の間での人間関係の構築こそが、データよりも精緻な「辞退する事実」と「辞退する理由」を捉えることができると思います。

昨今、AI化やRPA等、仕事の中でのテクノロジーの導入が加速度的に進んでいますが、今回のケースこそ「人の力」で取り組むべきことだと思います。

これから就活に挑まれる学生の皆さんには、何らかの理由で辞退することになった場合は、まず辞退先の会社に連絡しましょう。社会に出ればもっと嫌な電話をしないといけない場面が多々あります。当たり前のマナーとして「サイレント」だけは避けましょう。

そして、どこに辞退するのか、その理由をぜひ「本音」で伝えてあげてください。「お世話になったリクルーターに伝えるのは憚られる」、「言うと怒られそうだし面倒だ」等事情は様々だと思います。(余談ですが、稀に辞退連絡をすると怒られたと聞きます。そのような会社はその程度の会社です。気にせず前を向きましょう。)

しかし、リクルーターとしてもなぜ辞退するのか学生から納得できる理由を知りたいと思うのが普通です。結果辞退だったとしても、その生の声こそがリクルーターの本当の財産になります。もしかすると、辞退先の会社が未来のあなたのお客様になるかもしれませんよ。

まとめ:
長くなりましたが、今回のリクナビ問題を絡めて採用担当者目線で内定辞退率予測の問題点と私見を綴りました。就活の本来あるべき姿は、企業側は良い人材を採用し、学生側は良い企業と巡り合うWin-Winの関係だったはずです。


ある企業が優先的地位を利用して弱い立場にある学生に不利益を被らせることはあってはなりません。昔と違い、学生側から企業に応募する方法も多様化してきました。ナビ媒体は現在も就活の中で大きなウェイトを占めいているものの、それが全てではありません。自分にとって最良の選択をし、就活が実りあるものとなりますよう心から願っています。