
次世代型農場のオープニングスタッフに。「全農美土里ファーム」で創る、新しい農場のスタンダード。
次世代型農場のオープニングスタッフに。
「全農美土里ファーム」で創る、新しい農場のスタンダード。
このストーリーのポイント
- 福島の農業復興の“核”となることを使命に
- 搾乳ロボットなどテクノロジーを積極的に導入
- 生命と真正面から向き合える喜びとやりがい
福島県で建設が進む「全農美土里ファーム」は、意欲的なチャレンジにあふれた次世代型農場である。生き物と触れあう喜びを実感しながら、新しい農場を創り上げていく、得難い体験が味わえるだろう。
全国農業協同組合連合会福島県本部
小林 健二
畜産部 専任部長
愛知県出身。茨城大学農学部生物資源学科卒。1995年、全国農業協同組合連合会入会。同畜産生産部飼料畜産中央研究所乳肉牛研究室、同畜産生産部飼料畜産中央研究所笠間乳肉牛研究室、同畜産生産部生産振興課南那須牧場場長等を経て、2024年4月より現職。「全農美土里ファーム」の立ち上げ準備に携わる。
福島の農業復興を後押ししたい
東京ドーム約6.4個分の広大な敷地で建設が進む「全農美土里ファーム」。2026年の稼働を目指し、急ピッチで工事が行われています。忙しい毎日ですが、福島の復興に貢献し、未来の畜産業を創っている手応えは大きな喜びです。
このプロジェクトがスタートしたのは約10年前でした。東日本大震災と原発事故の影響で大きく毀損した福島県内12市町村の復興を後押しするために、全農グループとして何かできないかということがきっかけでした。
もともとこのエリアは畜産が盛んな土地ではあったのですが、大震災と原発事故によって、避難せざるを得なかった畜産農家の方々が大勢おられました。時が経って帰還が可能になった地域も増えてきましたが、畜産は、頑丈な牛舎や設備が必須で、子牛も非常に高価なため、簡単には再開できません。こうした厳しい状況から何とか福島の畜産を復興させようと取り組んでいる、大義ある試みが「全農美土里ファーム」の建設です。
「全農美土里ファーム」の稼働開始は2026年(本格稼働は2028年)を予定しています。もちろんそこはゴールではなく、スタートです。
例えば「全農美土里ファーム」で育てた和牛の雌子牛は素牛(約10カ月齢)になったら周辺の繁殖農家さんに購入していただき、繁殖母牛として飼養していただき、経営に役立てていただくことが目標です。また、牛の餌となる自給飼料作物も農場の堆肥を利用して周辺の農家さんに生産していただき、農場で購入・給与する、いわゆる耕畜連携も実現したいと考えています。
さらに自給飼料以外の耕種農家の方々への堆肥の供給も我々の使命です。このエリアでも除染作業によって田んぼや畑の土の地力が低下してしまいました。代々大切にしてきた田畑を取り戻そうとしても十分な堆肥が手に入らず、困っている農家さんもおられます。「全農美土里ファーム」が生産する堆肥は、そうした方々に喜んで利用していただけるようになれば良いと思っています。
このように「全農美土里ファーム」が稼働することによって地域の農業が大きく活気づくことを期待しています。そのために単に私たちだけの事業ではなく、福島の農業の“核”や“礎”となることが「全農美土里ファーム」には課せられているのです。それは非常に重い使命なのは間違いありません。まさに“大義”です。
現時点では机上の空論に感じる方もいるでしょうし、簡単ではないのは間違いなりませんが、準備を進める中で、地元の方から「待ってたよ」「早くできてほしい」との言葉をいただくたび私は、そんな“覚悟”を新たにします。
テクノロジーで創る、未来のスタンダード
「全農美土里ファーム」は、この先10年の日本の畜産業のスタンダードとなる農場を体現していきます。そのためにテクノロジーを積極的に採用・活用します。一例が搾乳ロボットです。
牛は一般的には毎日2回、可能な限り12時間おきに搾乳する必要があります。もちろん1日も休むことはできません。搾乳は機械で行いますが、搾乳機を乳房に装着するのは一般的には手で行います。したがって、365日休みがなく、朝早く、夜遅い部分が酪農経営、特に新規就農における一つの課題です。今回、「全農美土里ファーム」では16台の搾乳ロボットを導入。これは自分のタイミングで自らボックス内に入ってきた牛に対して、ロボットが搾乳するというものです。乳房の位置や形は牛によって個体差があるため、日々のデータをもとに微調整を繰り返し、最も効率的でストレスを与えないような搾乳を実現します。このロボットの導入は、働く人たちの負担を大きく軽減してくれます。ロボット搾乳が全ての課題を解決できるわけではありませんし、機械に任せる、という点で別の課題もあると考えますが、それにチャレンジすることで、今後の酪農経営の一つの形として実証していきたいと考えています。
そのほかにも、子牛にミルクを飲ませる哺乳ロボットや、乳を分析して繁殖管理を行うシステムなども導入します。牛に限らずフォークリフトもドライブレコーダーを搭載し、データを分析することで、燃費のよい操作方法に結びつけていきます。このようにテクノロジーを活用したインテリジェントな農場が「全農美土里ファーム」なのです。
ただし、決して最先端の技術をむやみに採用しているわけではありません。実験ではなく、ビジネスとしての酪農の現場ですから、確かな性能・機能が保証された安定的な技術のみを導入していきます。そのために、全農グループの研究所や関連農場で試験や実証も行ってきました。あくまで実用に徹したテクノロジーとすることが、10年、さらには20年後も通用するスタンダードな農場の実現につながると考えています。
酪農と肉牛(全農美土里ファームでは和牛繁殖のみ)を一体化させた「乳肉複合型農場」であることも特徴の一つです。つまり、ミルクを出す牛とお肉になる牛が同じ農場内で暮らすことになります。
肉牛肥育や和牛繁殖経営は、牛が出荷されるまでお金が入ってきません。それどころか長い時間、お金をかけて育て上げる必要があります。一方で牛乳は毎日生産されるので、日々、安定した売上が得られます。
牛の出すミルクで安定的に入ってくるお金で肉牛を育て、肉牛を出荷して得たお金を次の投資に向けていく、そんなビジネスモデルが「乳肉複合型農場」の目指す形です。安定的に稼げることは、スタンダードな農場として重要なことだと考えています。
生き物に寄り添い、一緒に暮らす
皆さんは畜産業に対してどんなイメージをお持ちでしょうか。生き物を相手にするので365日休むことなく働かなくてはならない、暑くても寒くてもお世話をするために農場へ行かなくてはならないといった“畜産業=重労働”というイメージをお持ちではないでしょうか。私はきれいごとを言うつもりはありませんので、農場の仕事は重労働であるとお伝えします。
しかし、一方で私自身が農場で働いて感じるのは、自然の中で体を動かすことの心地よさです。確かに「全農美土里ファーム」ではロボットを積極的に導入しますが、だからといって人間が動かずに済むわけではありません。基本的に常に歩き回っているし、体を動かす必要があります。最初はきついかもしれませんが、慣れていけば効率的な動き方も身についていくと思います。デスクワークや対人の仕事に比べると、人によってはストレストレスの少ない仕事と感じる場合もあると思っています。
牛と向き合えることも大きな魅力です。
牛というのは大変に魅力的な生き物です。動物の中では比較的のんびりしていて、あまり吠えたり、噛みついたりしませんし、人間のように怒ったり、イライラしたりすることもありません。食べて横になって休む時間が長い、とても本能的な行動をする生き物です。そんな素直な姿を見ているだけで飽きることはありません。子牛はお腹が空けばミルクをねだりますし、成牛でも寝床をきれいに整えてやると喜んで床でゴロゴロします。文句なしにかわいいですし、心が癒やされます。
一方で、生き物を飼養する職場ならではの厳しい局面もあります。病気もしますし、牛が死ぬこともあります。それは大変辛い経験であることは間違いありません。しかし、目の前で一つの命が絶えていく瞬間に立ち会うことによって生まれた感情は、間違いなく人間としての成長につながりますし、心を育ててくれます。
農場では毎日のように子牛が生まれ、その出産に立ち会うこともしょっちゅうです。牛の出産は比較的重く、ようやく生まれてきた子牛を母牛が全身を舐め、その刺激を受けて子牛が立ち上がる瞬間は言葉に表せないほど感動的です。時には死産もありますが、それを理解できずに死んだ子牛を一生懸命に舐め回す母親の姿を目にすると、本当に辛いです。そんな場面に立ち会うと、どうして死産だったのか、どうやったら死産を減らせるか、を真剣に考えることになり、それを乗り越えていきます。そうやって成長していく従業員を何度となく見てきました。
生命と真正面から向き合う体験は農場だからこそ得られるものです。その一つひとつが働く人の人生にとっての財産になるのは間違いないでしょう。
未来の「当たり前」を、一緒に創りませんか?
私が大学で畜産を学んだのは、文系の勉強が苦手で、生き物が好きといった軽い気持ちからでした。全国農業協同組合連合会に入会したのも、畜産分野に興味があったのはもちろんですが、就職先として安定しているから親を安心させるためというのが大きな理由でした。幸運だったと思うのは、入会した時期が日本の酪農の技術が大きく成長した時期だったことです。全農グループはもちろん、全国の酪農技術者、そして酪農家さんが欧米の最新技術を導入して経営改善や成績向上に取り組んでいきました。そのなかで私自身も多くの経験をし、新しい技術を学び普及する仕事は大変楽しかったです。
ターニングポイントとなったのは、異動で栃木県の和牛繁殖牧場の場長を務めたことです。経営状況の厳しい農場でしたが、場長として当然ですがゴールデンウィークや年末年始もなく仕事をする日々を送ったのですが、それが非常に楽しく、牛たちと一緒に過ごす喜びを味わえました。あのときにたくさんのことを牛から教わったと思いますし、こうしたキャリアの集大成として「全農美土里ファーム」のプロジェクトに携わらせてもらっています。
「全農美土里ファーム」の工事は当初の予定より遅れてはいるものの、2025年8月現在で70%ほどの進行状況です。2026年には一部で稼働を始めて、2028年には全面稼働を見込んでいます。
これから入社される皆さんは、この画期的な次世代型農場のオープニングスタッフということです。新しい時代のスタンダードを自らの手で築き上げていく、そんな醍醐味を感じていただきたいと思います。
畜産や農業の経験、知識は不要ですが、生き物に携わっていること、人々の口に入る食品を生産していることに誇りを持てる方を求めています。また、お世話する相手は牛でも、一緒に働くのは人間ですので、誰とでも誠実にコミュニケーションできることが大切です。チームワークがとても大切な仕事なのです。
少しでも興味をお持ちなら、ぜひ福島まで足を運んで「全農美土里ファーム」をご覧いただければと思います。この土地で暮らし、新しい農場づくりにチャレンジするご自分の姿がイメージできたら、ぜひオープニングスタッフの一員として参加しませんか。
心から歓迎します。