【特別対談】VUCA時代に求められる“人財”になるための「キャリア形成」(前編)

【特別対談】VUCA時代に求められる“人財”になるための「キャリア形成」(前編)

人生100年時代 会社選びの新たな基準とは

前編のポイント

  • 変化が激しい現代社会では、旧態依然のキャリア論は通用せず、社会や環境の変化に適応しながら、柔軟に仕事や働き方を変えていく変幻自在なキャリア、「プロティアン・キャリア」が重要である。
  • ビジネスパーソンとしてプロティアンなキャリアを構築するには必要な3つの資本;ビジネス資本、社会関係資本、経済資本、がある。
  • オリックスは幅広い事業領域を横断して異動することでプロティアン・キャリアを実現し、3つの資本を積み上げる土壌がある。

テクノロジーの進化や市場の成熟化に伴い、現代社会は新しいビジネスが次々と既存のビジネスに取って代わっていくというような、以前にも増して変化の激しい時代になってきています。一方で、「人生100年時代」となり、今後は50年~60年にわたって働くことが想定されています。「ビジネスは短いスパンで変化していくのに、働く期間は延びていく」。この状況は、今就職活動をするみなさんにとって、将来像を描くことを難しいものにしているのではないでしょうか。

変化の激しい環境のなか、ある日突然自分の仕事がなくなるかもしれませんし、会社だってどうなるか分からないのです。「将来に対して急に不安になってきてしまった」という声が聞こえてきそうですが、万が一、そのような状況に直面しても自分らしく生きていくために、就職活動を行う今から未来に向けて何をすべきかをしっかり考える必要があります。

では、今何をすればいいのか。それは、就職活動を行う今から自分のキャリアを主体的に形成していくことを意識することです。就職活動で企業からの内定をもらうことは、キャリアのスタート地点にすぎません。長い自分のキャリアを形成していくためには、入社後、会社の看板に寄り掛かるのではなく、自身のキャリアやスキルをステップアップさせ、市場価値を高めていくことが重要です。

就職活動を始めるにあたり、入社後のキャリアについてぜひ意識していただき、みなさんそれぞれのキャリア目標に適した会社を見つけてほしいと思います。

今回は、そのような「VUCA時代に求められる“人財”になるためのキャリア形成」をテーマに、法政大学の田中 研之輔教授とオリックスの人財開発チーム長 谷川 修一氏に対談をしていただきました。

特別対談の前半では、田中教授が提唱される、今の時代に求められる新しいキャリアの考え方である、『プロティアン・キャリア』の概要や重要性、オリックスの企業文化などについて語り合っていただきました。

Profile

法政大学 キャリアデザイン学部・TTC 博士(社会学)
教授 田中 研之輔 氏

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専門はキャリア論。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員を務める。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトを数多く手掛け、民間企業の取締役や社外顧問を18社歴任する。著書25冊。

オリックス株式会社 グループ人事部
人財開発チーム長 谷川 修一 氏
※所属部署・役職は取材当時のものです

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1998年にオリックス㈱に入社。北陸支店・渋谷支店などエリアでの法人営業部、不動産向けファイナンス専門部署、大手事業法人を担当する戦略営業部、名古屋支店のチーム長を経て グループ人事部に異動。新卒採用・人財開発の責任者を務める。

『プロティアン・キャリア』とは会社に依存せず、自ら主体的にキャリアを形成する考え方

――田中教授は、著書『プロティアン:70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社)において、「人生100年時代を踏まえ、長期的な働き方や生き方を自分でデザインしていかなければならない。その軸となるのが、『プロティアン・キャリア』だ」と語っておられます。どのような概念なのでしょうか。

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田中 『プロティアン・キャリア』は、1976年にボストン大学経営大学院のダグラス・ホール教授が提唱しました。『プロティアン』とは、ギリシア神話に登場する、自分の意思で自由自在に姿を変えることができるプロテウスの神のこと。その神の化身とキャリアを掛け合わせた新しい概念が、『プロティアン・キャリア』です。社会や環境の変化に適応しながら、柔軟に仕事や働き方を変えていく変幻自在なキャリアを意味します。社会的ニーズにあわせて、変幻自在に自ら主体的にキャリアを形成していくことができれば、この先どんな変化があっても自分らしく働いていけるのです。

今、何故『プロティアン・キャリア』なのかというと、社会が大きく変化していて、企業の雇用の形も終身雇用の崩壊や通年採用へのシフトなど、従前の形とは大きく変わってきています。では、そんな時代背景で、個人の働くことについての向き合い方は変わらなくてもいいのかというと、当然個人も時代に合わせて変わっていかなければならないのです。しかし、この10年、20年の日本のGDPを見ても成長率は落ちていますし、企業の生産性の話もこれだけ問題になるのは、働いている人たちの個々のパフォーマンスが上がっていないからなのです。現状を打破するためにも、変化に対応しうる人材、自らキャリアをハンドリングしていく『プロティアン・キャリア』が求められているのです。

谷川 事実、日本を代表する企業の経営者も「終身雇用や年功序列といった日本型の雇用を継続するのは難しい」とお話をされていました。会社はもはや、末永く雇用を守ってくれるものではない、と働いている側も相当覚悟をしなくてはいけません。このまま受身ではいられませんので、キャリアを自分で作っていくという気持ちが大切になってきます。田中先生の『プロティアン・キャリア』の概念をお聞きし、「ぜひ学生のみなさんに伝えたい」と思いました。

『プロティアン・キャリア』の構築法 何を重視すべきか

――田中教授は「プロティアン・キャリアには、必要な資本が3つある」と指摘されています。それはどのようなものですか。

田中 3つの必要な資本とは、①ビジネス資本、②社会関係資本、それから③経済資本です。①ビジネス資本とは、スキルや語学、プログラミング、資格、学歴、職歴など、キャリア形成を通じて得られる知識や立ち居振る舞いを指します。②社会関係資本とは職場、友人、地域などでの持続的なネットワークの集積です。そして、③経済資本とは金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資源を意味します。プロティアンなキャリアを構築するには、これら3つの資本を戦略的かつ計画的に蓄積していくことが重要になってきます。

その中でも①ビジネス資本はプロティアンなキャリアを形成するための基本となる資本です。ただ、この資本が蓄積しないビジネスパーソンが多いのではないでしょうか。ビジネス資本を形成する上で大切なのは、目の前の仕事に没頭できていること。そのためには、職場が楽しくやりがいがあり、自己成長をしているという心理的達成度が高くないといけないのですが、同じことを長期間「こなしている」だけではビジネス資本は蓄積しません。

――企業文化や職場環境において、オリックスは、『プロティアン・キャリア』を形成する場として相応しいとお考えですか。

谷川 オリックスは、リースから始まった会社ですが、創業以来事業領域を広げてきています。私が入社したのは今から20年ほど前ですが、オリックスが水族館の運営や空港の運営へ参画している現状は想像していませんでした。これまで常に変化し続けている会社なので、社員の多くが自らの変化に対しても前向きに捉えていると思います。幅広い事業領域の分だけ社員のキャリアもそれぞれに異なっており、さまざまなキャリアを歩める可能性があります。ただ、幅広い事業領域とキャリアの選択肢がある分、学生のみなさんにとっては分かりづらく、入社後のキャリアをイメージしづらい会社かもしれません。「こういうキャリアルートがあって、この部署で仕事をしたら、次はこの部署へステップアップできる」と言えるものがないからです。

――オリックスには「社内転職」という言葉があります。部門を超えたジョブローテーションが行われているのも特長といえるのではないですか。

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谷川 全くの専門外の部署に異動することも、オリックスでは珍しくありません。現在、新入社員には入社から10年で3部署ほど経験してもらう方針を取っていますが、どの世代においても自分のキャリアと連動性がない部署への異動は当たり前としてやってきました。お取引先の方にこのようなお話しをすると、すごく珍しがられます。
「社内転職」ができる環境にあるのは、離職率の低さにもつながっていると思います。恐らく、ファーストキャリア(新人配属)の時に自分が思っていたキャリアと多少異なっていたとしても、他にも選択肢がたくさんあるというのは、社員にとってキャリア上のメリットになっているのかもしれません。それは、何かやりたいことが見つかった時に、転職しなくても社内に選択肢があるというメリットになるからです。

田中 社風として「社内転職」があるのは素晴らしいことです。よくプロティアンで誤読されるのが、「どこでもいいから転職・異動すればいいのか」ということですが、そういう話ではありません。重要なのはいかに今のビジネス資本を生かしながら、新しい環境に適応して更に成長できるかということです。全くのゼロベースで業界が異なるA社からB社に転職するのはリスキーな点もありますが、「社内転職」であれば、同じ会社という安定した土台がある中で、安心して適応することができます。

更に言うと、私は、成長はチャレンジとスキルの掛け算で、この二つは相関関係になっていて、双方が高い方がより仕事にやりがい、達成感を感じ、仕事に没頭して成果を出すことができると考えています。人間は同じ職場で同じことをずっとやっていると、スキルは上がるけれどチャレンジングな環境ではなくなるため、それは飽きとなり成長しなくなります。しかし、異動することで自分のスキルは維持したまま、新たなチャレンジに臨むことができるので、更なる成長が期待できるのです。

プロティアンで大事にしているのはアイデンティティ(自己同一性)とアダプタビリティ(適応能力)です。アイデンティティとは、自分が何を大切にして、どのように働き、どう生きていきたいのかを考えること。アダプタビリティは、社会や組織の変化に対して適応していく姿勢そのものを意味します。オリックスで働く社員は恐らく「社内転職」を経験することで、自社内というアイデンティティを維持しながら、アダプタビリティを高めていくという形で、ビジネス資本が蓄積されているのだと思います。まさに、プロティアンな職場環境だと言えます。

谷川 蓄積されたビジネス資本は自分のなかにあって絶対に逃げていかない。だから、異動することでステージが変わっても、既存のビジネス資本を残したまま、新たなビジネス資本を蓄積できる。その積み上げが多様であればあるほど強いということ。これはとても納得できます。自分の専門外の部署に異動することになっても、パフォーマンスの高い社員はすぐにまた活躍します。それは、ビジネス資本の積み重ねがあるからこそ、新しい職場の働き方に適応できるということだと理解しました。

オリックスの社員は昔から自分の専門外の部署に異動することで、これまでの経験で得た専門性やノウハウを活用し、新しい価値を生み出してきました。当時からプロティアン・キャリアや3つの資本を意識していた訳ではありませんが、この企業文化が3つの資本を積み上げる土壌を形成してきたのだと思います。今のお話は、私にとって、とても腹落ち感があります。

田中 オリックスなら3つの資本を戦略的に蓄積していくことができます。自分が培った資本を土台に、自分自身が変化を成長の糧にしていくのです。それが、オリックスではできています。だから、オリックスにはストレッチの利く人財が増え、結果的に事業も伸びているのだと思います。

後編へつづく)

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