「好き」を極めてプロになる。ADからディレクターへ、若きテレビマンの10年間の挑戦と未来
「好き」を極めてプロになる。ADからディレクターへ、若きテレビマンの10年間の挑戦と未来
このストーリーのポイント
- サッカーへの情熱を胸に、「感動を届ける」仕事を目指しテレビ業界へ
- ADからディレクターへ。ニュース、五輪中継など多様な現場でプロの技を磨く
- 業界屈指の実績と、若手の挑戦を温かく後押しする企業風土の中で成長を実感
設立から半世紀に渡り培ってきた専門性を強みに、多様な番組制作を手掛ける東京ビデオセンター(TVC)。中でも、「スポーツ番組」での実績が豊富だ。「TVCなしには現場が回らない」という声も聞こえて来る。アシスタントディレクター(AD)としてスタートし、番組づくりのノウハウを習得した千代間も今や将来を期待される若手ディレクターの一人。プロにしか作れないスポーツコンテンツを追い求めて、日々チャレンジを続けている。
株式会社東京ビデオセンター
千代間 成彦
スポーツ制作部 ディレクター
2013年4月新卒入社
総合情報学部卒

好奇心旺盛な性格で、色々なことに興味を持ってきた。幼い頃からサッカーに熱中し続け、小学校から大学までボールを追いかけて過ごした。スポーツを通じた興奮を多くの人に伝えたいとスポーツコンテンツ制作にも強みをもつTVCに入社した。社会人になってからも、仲間とともに練習試合に参加。結婚後は家事を手伝うことも多くなり、テレビでのサッカー観戦が憩いの時間になっている。
あの日の感動が原体験。サッカー少年がテレビの向こう側を目指した理由
学生時代は、サッカーに夢中になっていました。その情熱は就職活動の軸になり、「スポーツを通じて人々に感動を届けたい」という確固たる想いを持つようになりました。きっかけは、中学生の時にテレビで視たUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)チャンピオンズリーグの決勝戦『ACミラン対リバプール』で味わった感動です。世界のサッカークラブの最高峰を決めるその一戦は、私の価値観を根底から揺さぶるものでした。その想いがさらに高まったのが、大学時代にボランティアで始めたスポーツ少年団のサッカーコーチ経験でした。子どもたちの成長を間近で見るうちに、今度は自分がスポーツを通して多くの人に勇気や元気を届ける側になりたいと、強く願うようになったのです。
テレビ業界を志望したのは、今思えば少し気恥ずかしいほど純粋な動機からでした。「スポーツ番組の制作に携わることができれば、取材や試合の中継で海外に行けるかもしれない」。そんな想像に突き動かされて制作会社を志望しました。TVCを選んだ決め手は、明確に二つあります。一つは、数ある制作会社のなかでも、スポーツ番組を専門とする部署を擁し、その制作に情熱を注いでいる稀有な存在だったこと。もう一つは、選考でお会いした人事の方々の温かな人柄です。僕の話に真摯に耳を傾け、一人の人間として向き合ってくださる姿勢に、強く心を惹かれました。家族も、「自立して生きていけるのであれば、やりたいことをやりなさい」と背中を押してくれました。

右も左もわからなかったAD時代。現場の熱気が、成長の原動力だった
入社後は、念願叶いスポーツ制作部への配属が決まりました。ADとして最初に参加したのは、NHK-BS『スポーツ酒場“語り亭” 』。僕が入社した時期にスタートした番組だったので、「皆で新しい番組を創り上げていこう」という熱気に満ちた現場でした。
この番組は、ミッツ・マングローブさんが“語り亭ママ”となって、テーマに合わせた多彩なゲストと共に、とにかくスポーツを熱く語り尽くすというもの。僕の仕事は、ディレクターとゲストの打ち合わせに同席したり、ゲストの現役時代の映像をひたすら集めたり、番組の小道具を手配したりと多岐にわたりました。テレビ制作の右も左もわからなかった僕は、ディレクターの指示を無我夢中でこなす日々。まさに手取り足取り、現場のイロハを叩き込んでもらいました。
『スポーツ酒場“語り亭”』には2年半ほど携わった後、入社3年目の半ばに配属されたのが、TBSの大相撲ニュース班でした。主な業務は、当時TBS系列で平日朝生放送されていた情報・報道番組『あさチャン!』のスポーツニュースで、本場所期間のみ取り扱う大相撲コーナーのVTR制作でした。国技館などの現場でTBSのアナウンサーによる全取り組みの実況を収録し、日本相撲協会から提供される映像と組み合わせてVTRを編集、さらにはニュース原稿の執筆まで担当しました。
ただ、これまでとは仕事のやり方が大きく変わったので、衝撃を受けましたね。『スポーツ酒場“語り亭”』が局内での作業が中心で、放送日から逆算してスケジュールを組めたのに対し、大相撲ニュース班は全てが現場勝負。翌朝の生放送というタイムリミットに常に追われる、息つく暇もない緊張感がありました。その過酷さの一方で、一丸となって番組を創り上げる現場の醍醐味を肌で感じることができました。
表向きは「相撲の現場に行ったら、お前はディレクターだ」と指示され、アナウンサーへの指示や相撲協会との映像交渉などを任される一方、ロケの手配やチケット取りなどAD業務も兼任していました。相撲がない期間は、NHK-BSのスポーツニュース番組『ワールドスポーツMLB』で放送用のテロップをひたすら打ち込むといった地道な作業にも従事しました。いわば、入社3、4年目は、番組によって役割を変える、ディレクターへの過渡期だったのかもしれません。この経験を通じて、ADが担う一つひとつの交渉や確認作業が、いかに番組の土台を支えているのかを痛感することになったのです。

責任の重さが、やりがいに変わる。ディレクターとして見えた新たな景色
TBSの大相撲ニュース班に5年半ほど在籍し、名実ともにディレクターとなった後、活動の幅はさらに広がりました。NHK-BSで放送されている情報バラエティ番組『サッカーの園』や、以前担当したNHK-BS『スポーツ酒場“語り亭”』などの番組に関わるほか、北京オリンピック中継や、東京オリンピックでの8K中継なども手掛けました。
しかし、大きな達成感を得た東京オリンピックの後、私の心は揺れていました。大きな目標を成し遂げたことで、まるで心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような感覚に陥ったのです。今思えば、それは一種の”燃え尽き症候群”だったのでしょう。局ごとに異なる制作スタイルへの戸惑いも重なり、すぐには順応できずにもがく日々が続きました。
そんな僕の様子を気にかけてくれた先輩のプロデューサーが「NHK国際放送の相撲番組を手伝ってくれないか」と声を掛けてくれたんです。この一言が、燻っていた僕の情熱に再び火を灯してくれました。2022年3月から現在に至るまで、大相撲の名力士に迫る「GRAND SUMO Legends」や大相撲の本場所期間中に全取り組みを放送する「Grand Sumo Highlight」などの番組を制作しています。ここではプロデューサーが一人いて、僕はその次のポジションを主に担当します。参加する他のディレクターはいずれも僕よりもベテランなので、先輩たちを納得させる企画や演出を考え番組を制作する責任があります。
年次を重ね、番組内で自分が担う役割が大きくなり、責任感も強まると同時に仕事のやりがいを感じています。本当に最初は、ディレクターの後ろについて有名人の話を聞いているだけで楽しいというレベル。今では、僕がその方とやりとりし、「どうしたら面白い話を引き出せるだろうか」と頭を悩ませています。その分、上手くいったときの達成感はとびきり大きなものがあります。まさにこの仕事の醍醐味といったところでしょうか。
これまでのキャリアを振り返ると、僕にとって最も印象的な番組となったのは、2020年にTBS系列で放送された元大相撲力士・白鵬関の密着ドキュメント『新たな誕生日』です。僕は白鵬関が日本国籍を取得するという、まさに歴史が動くその日に立ち会い、白鵬関の言葉の一片までをもカメラで捉えることができました。その映像が、番組の冒頭を飾るなど、ディレクターとしての自信を得ることができました。

「日本中で君しかいない」若手の挑戦を信じ、背中を押してくれる文化
僕がTVCに入社してもう10年余が過ぎました。この期間、さまざまなテレビ関係者と接点を持ってきましたが、改めて感じているのはTVCへの信頼度の高さです。例えば、僕が今手掛けているNHK国際放送の相撲番組は、「TVCがいなければ回らない」とまで言っていただけています。もっと言えば、NHKの大相撲に関わる番組のすべてにTVCが携わっているので、その評価の高さがわかります。
その信頼は、相撲分野に限りません。オリンピックやワールドカップなどの世界規模のスポーツイベントでは、中継スタッフとしてTVCに声が掛かります。長年の実績に裏打ちされた安心感と、期待を裏切らないクオリティ。それこそが、私たちの誇りです。
実際、このスポーツ制作部を見渡しただけでも、専門的な知見を持ったメンバーが多数揃っています。オリンピックや世界大会を幾つも経験して来ている歴戦の猛者たちなので、その経験の厚みと深さは、まさに計り知れません。
また、一口にスポーツ制作と言っても、中継やハイライト、ニュース、バラエティなど多様なジャンルを手掛けられるのもTVCならではの特徴です。僕自身、その全てを経験する機会に恵まれました。番組ごとに異なる制作手法を体系的に学べる環境は、制作者として大きな財産になっています。
もちろん、どこで実力を発揮するかはあくまでも本人の努力次第です。僕自身が努力をしたと自信を持って言い切れるわけではないですが、少なくとも好奇心旺盛に色々興味を持って取り組んできたのは事実です。そのおかげで、今の僕があると思っています。
TVCには、会社全体として若手のチャレンジを支えてくれる環境があります。「こんなことにトライしてみたい」と言って、頭ごなしに否定する人間は誰一人もいません。むしろ、どうすれば実現できるかと、常に前向きな議論へと導いてくれるのです。それに、後輩をいつも見守ってくれていて、的確なタイミングで勇気づけてくれる先輩が多くいらっしゃいます。
私自身、TBSで大相撲ニュース班に異動となった当初、ニュース原稿も書けない、番組のネタも見つからず、「これで大丈夫なのか」と不安になったことがありました。本場所を終えたときに、先輩のディレクターに「いつも迷惑ばかり掛けてすみません」と頭を下げたところ、「20代でありながら毎日現場で大相撲を見ているディレクターは、日本中で千代間しかいない。もっと自信を持て」と励まされました。それが糧となって、頑張れた気がします。
そんな風に先輩に教え導かれてきた僕だけに、同じ番組で後輩ができたらわかりやすく丁寧に教えてあげたいです。特に僕が今関わっている番組は、ディレクターへの登竜門として理想的な環境です。時間的な余裕もありますし、映像編集のノウハウもイチからしっかりと学んでいけるからです。
次なる夢へ。テレビだからこそ届けられる「本物の熱狂」
これからも一つひとつの仕事に真摯に向き合い実績を重ね、周囲との対話を何よりも大切にしながら、自らの道を切り拓いていきたいと考えています。私が目指すのは、単なる試合の結果を伝えるのではなく、観る人の心を揺さぶり、記憶に深く刻まれるようなスポーツ番組を創ること。そして、その感動をきっかけに、一人でも多くの人がグラウンドに駆け出したくなるような、スポーツの裾野を広げる一助となることです。
最近では、メディアや情報発信を取り巻く環境が大きく変化しています。しかし、私たちのようなプロフェッショナルがチームで作り上げるコンテンツでしか得られない感動や興奮があるはずなので、それを視聴者の皆さんと共有していきたいです。スマートフォンの普及で誰もが発信者になれる時代だからこそ、私たちプロフェッショナルの真価が問われます。被写体への深い愛情。それを最高の形で届けるための、技術と情熱の限りを尽くした創意工夫。この二つが一体となって初めて生まれる映像の熱量と没入感は、決して模倣できるものではありません。だからこそ、テレビ制作という仕事は、これほどまでに奥深く、私たちの挑戦心を掻き立ててくれるのです。

