釣りの楽しさをあらゆる世代に届けたい。お客さま目線で磨きをかける商品開発の現場
釣りの楽しさをあらゆる世代に届けたい。お客さま目線で磨きをかける商品開発の現場
このストーリーのポイント
- 9年の店舗で接客経験で培われた、初心者や子どもにも優しい商品づくりへの挑戦
- 価格と技術の壁を乗り越えた、オリジナルヒップバッグ開発の秘話
- 店舗と本社が一体となって顧客価値を創る、タカミヤのチームワークが自慢
タカミヤは小売チェーン「釣具のポイント」を全国展開する一方、プライベートブランドの開発、販売にも注力している。その中核を担う商品企画開発室では、使いやすい商品づくりに情熱を注いでいる。
株式会社タカミヤ
原田 拓弥
商品部 商品企画開発室

鹿児島県出身。幼い頃から釣りに親しみ、大学では水産学を専攻。新卒でタカミヤに入社後、広島、山口、福岡の店舗で経験を積み、店長も務める。約10年を経て、商品企画開発室に異動。休日は7歳と2歳の2人の子どもと過ごすことが多く、釣りを通じて子どもたちに自然の楽しさを伝えている。
海辺で育った釣り少年の私が釣具店に入社するまで
鹿児島県の外海側、吹上浜のそばで育ちました。父親に連れられて海に出ることが多く、釣りは子どもの頃からずっと身近にありました。魚を観察するのも好きだったので、アクアリウムが趣味になるのも自然な流れだったと思います。地元の大学で選んだ水産学部では、エビを研究テーマに選びました。鹿児島の錦江湾という限られた場所にしか生息しない珍しい種類がいると知って、「地元のことをもっと知りたい」と思ったのがきっかけです。
やがて就職活動では、当然のように釣具の業界も見ていました。最初は釣り竿やリールを作るメーカーでのものづくりに憧れていましたが、調べるうちに小売店という選択肢があることに気づいたんです。ファミレスでのアルバイトでは、接客を通じてお客さまの喜ぶ姿を拝見できる瞬間が好きだったので、小売店にも興味が湧きました。
大学のそばにも「釣具のポイント」のお店があって、よく利用していたのですが、タカミヤという運営会社の名前は就職活動が始まるまで知りませんでした。会社のホームページを見ると、店舗販売だけでなく、ECサイトの販売も行っていて、さらにプライベートブランドの商品開発もやっていることに驚きました。小売の立場ながら、ものづくりにも力を入れていれば、将来の自分がチャレンジする仕事の幅も広がり、面白いのではないかと考えるようになったのです。店舗での接客も経験できるし、いつかは商品開発にも関われるかもしれない未来にワクワクして入社を決めました。

9年の店舗経験が、ものづくりの原点になっている
入社後は店舗配属となり、広島、山口、そして北九州と、いくつかの店舗を経験し、店長として売り場を任された時期もあります。気づけば10年の歳月はあっという間でしたが、店舗での経験は今も私にとって財産です。特に大切にしていたのは、初心者の方やお子さまへの接客でした。釣りを始めたばかりだと、何を買えばいいか分からず不安そうに来店されることが少なくありません。そこでできるだけ丁寧に説明し、まずは手頃な価格のプライベートブランドの商品をおすすめすることが多かったです。釣りを始める心理的なハードルを下げて、釣りの楽しさに触れてほしいという想いがありました。
店長として3年目を迎えた頃、商品企画開発室への異動を打診されて驚きました。ちょうど新たな年度に向けて、自分の店舗でやりたいアイデアを考えていた時期だったので、戸惑いというか心残りもあったんです。店舗を離れると、せっかく築いたお客さまとの関係、スタッフと作ったよいチームが失われるような感覚もありました。しかし、もとは商品開発というものづくりに興味を持っていたのも事実です。店頭で販売するプライベートブランド商品を見ながら「もっとこうしたいのに」と思った記憶も頭をよぎり、最後はこのチャンスを逃したくないという気持ちが勝りました。店舗での経験を活かして、今度はものづくりの側から、お客さまに喜んでもらえる商品を作りたい。そう考えて、本社への異動を決心したのです。

お客さまの購買データと店舗からの声で商品を完成させた
プライベートブランドの企画から販売までを一貫して担当できるのが、タカミヤの商品開発の魅力だと思っています。何を作るかのアイデア出しから、製造工場の選定、価格交渉、サンプルチェック、個数の発注、そして各店舗での販売計画まで、多岐にわたります。
最初は先輩のサポート役として、衣料品、小物、ルアーの商品開発に関わった私が初めてメインで担当したのは、ヒップバッグでした。腰にベルトを巻き付けて、さまざまな小物を入れておく釣り人には欠かせないアイテムです。私は、カラーバリエーションを豊富にし、選ぶ楽しさをお客さまに提供したいと、企画を進めました。ところが自分が細部にこだわるあまり、価格設定を見誤ってしまいました。色数を増やせばコストが上がることぐらいは、分かっていたつもりでしたが、多少なら高くなっても問題ないだろう」と甘く見ていたんです。
先輩に報告したとき、「高いね」と一言。市場の相場よりかなり高いことに初めて気づきました。なんとか店舗での必死な宣伝のおかげで販売できましたが、自分の詰めの甘さを痛感した出来事でした。その悔しさをバネに、新しいヒップバッグの開発に挑んだ際には、リサーチを徹底して、目標にした価格を最初から明確にしました。そして機能面では、多くの店舗から販売データが集まるタカミヤの強みを活かしました。よく売れている収納ボックスのサイズを分析し、それがちょうどおさまるようにバッグのサイズを設計したんです。
順調に試作が進みましたが、最終段階ではコストを抑えるために側面に付いていたレインウェアを束ねるためのストラップベルトを外そうかと検討しました。材料を減らし機能を削ることは、販売価格を下げることにもつながるからです。ところが試作品を見た店舗のスタッフからは「絶対に残すべき」「お客さまが喜ぶはず」との意見が続出し、私は結局その現場の感覚を信じることにしました。タカミヤの店舗スタッフは、お客さまのことを第一に考えて働いていますが、本社で働く社員は、直接お客さまと接する店舗スタッフのことを第一に考えるという文化が根付いています。実際に今回は、現場のリアルな声が、私たちの判断を正しい方向へ導いてくれました。本社と店舗の連携こそがタカミヤの強さなのだと、改めて実感した出来事でした。店舗と本社が協力し合えるからこそ、良い商品が生まれるのだと、商品開発を通じて実感しています。

子どもでも安全で楽しめる道具を創って家族が楽しめる体験を
新しいヒップバッグは、おかげさまで好評をいただいています。店舗によっては特設コーナーを作って、販売に力を入れてくれるところもありました。スタッフが自社商品の露出を増やして盛り上げてくれるのも、ありがたいことです。先代のヒップバッグの反省を活かすことができたのも、個人的にほっとしました。自分が開発した商品を使っている投稿をSNSで見かけるのも、この仕事の醍醐味です。釣り場で実際に使われている写真を見ると、心の中でガッツポーズしたくなりますね。本社に直接電話がかかってきて「いい商品を作ってくれてありがとう」とお客さまからのお声を直接お聞きすることもありますが、これはさらに嬉しい体験です。
今後は、子ども向けの商品開発に力を入れていきたいと考えています。子ども用のフィッシングベスト、子どもでも扱いやすい仕掛け、危険の少ない針なども研究の余地があります。技術的に難しいものでも、子どもが安全に釣りを楽しめる商品と考えたら挑戦したくなります。私自身も2児の父で、上の子は釣りを楽しめる年齢になってきました。家族みんなで釣りを楽しむのは、きっと子どもが大きくなっても忘れられない体験になると思うので、そんな特別な時間を過ごすお手伝いができたら本当に嬉しいです。
釣りは自分で楽しむだけでも素晴らしい趣味ですが、お客さまに釣りの喜びや楽しさを味わってもらいたいと思える人なら、この仕事がぴったりですし、ぜひ一緒にタカミヤの商品を作りたいです。自分たちが開発した道具で、家族みんなで釣りを楽しむファミリーを増やしたいという私の夢に共感してくれる人が一人でも多く加わってくれることを願っています。

